俺はチョコボールを買いに来ていた。
 いや、決してキャラ付けしようとかそういうのじゃないから。
 近くのコンビニに寄ると値下げしていた板チョコがもとの価格に戻り
 代わりに綺麗に包装されたチョコがダンボールに投げ入れられて安売りしていた。

 今日は17日。バレンタインはもう3日前のこと。


<不意>


「はぁ〜・・・いってぇ・・・・・。」
 皆さんこんばんは。そうでない人もノリで「こんばんは」と言って欲しい。
「ボンドアーティスト」
「魔性のガラクタ使い」
「イケメン気分屋」
「トラップマスター」など数々の異名持つことでお馴染みな上妻恭輔、15歳。
 上記のとおり俺は現在コンビニにいる。
 ひどく体中が痛い。  肩を回そうとすると声にならない声が虚空を切る。
 何故かって?それはね・・・


 14日、いわゆる製菓業界の企みによって
 女子が意中の男子にチョコを渡す恋愛一大イベントの日バレントゥアインデー。
 そんな日に岩崎女史から個人的な制裁を食らってしまったからだ。
 昼休みの図書の当番で軽く(半分と半分は本気だったけど)岩崎女史に
 チョコの類の話題を出してしまっただなんて今思うと情けない。
 それにみんなの美樹佳サマを恐れてか誰一人近くに寄ろうとせず、
 3メーター弱離れたところで指をさして苦笑いしていた。
 ローマ奴隷時代の人々の苦しみを分かったような気がしたところで俺の記憶は飛んでいる。
 唯一近くにいた澤田は黙々と仕事をこなし、時々こちらを見たかと思うと
「……そろそろ仕事してくれないかなぁ…。」
 と呟きながら溜め息をつき、
 諦めたような顔で再び仕事にとりかかる。頼むから助けろよ。
 思い返せば朝の岩崎女子は完全に俺をスルーして植木などにチョコをあげていた。
 他のクラスにはあげないのかと思っていたら当番中に1組の裏切り者、
 澤田さえも貰っていた。何ですかその扱いの差。

 数々のアプローチを試みるもすべて虚しく廊下に悲鳴が響き渡るだけ。
 同じ図書委員の大西は普段おせっかいじみたことをしてくれるのに
 今回に限っては何も手助けが無い。(澤田いわく「……あー…この前色々あったからなぁ…」と言うことらしい)
 そのまま岩崎からのチョコwなんて代物は一切手に落ちぬまま時間は更け
 午後の授業(あまり記憶が無い)が過ぎ、
 帰りの学活となり、
 気づくと下校時間となっていた。

 様々なあの酷い惨劇をなんとかチャイムという救いの手で乗り切った俺は廊下でうなだれていた。
 迂闊だった。
 なんで女なのにあんなに身長高くてリーチ長いんだよ。
 なんでとどめにボディーブローなんだよ。
 そこへ素晴らしい笑顔のマミが駆け寄ってきた。後光がさして見えるのは俺の死期が近いからか?
 マミは逢うなり
「キョロー。手ぇ出してー。」
 といきなり一言。
 機嫌があまりよろしくないというのに良い度胸だね三浦君、と言いたいところだがそこはぐっとこらえる。
「何だよマミ。ゴミとかだったら嫌だからな。」
 俺はしぶしぶマミに手を出した。

   コロッ

 二粒の菓子が手に転がる。
 茶色い・・・チョコ。チョコボールだ。マミはさっきより眩しい笑顔で俺を見ている。

「何だよコレ。大してチョコレートを貰えなかった俺に対する嫌味か?」
「違う。本命チョコ、だと俺は思うんだけどな。」
「は?どういう意味?」
 怪訝な顔で問いだすとくっくっくと笑いながらマミが説明を続ける。
「これ岩崎から貰ったんだ。
 朝教室に入って俺を見るなりすぐさまアンダースローで渡してくれた。」
 貰うっていうより、投げ捨てられたといった方がいいだろう。
 よく見るとマミの顔は涙目。トラウマ決定だな。

 マミの涙のことは置いといて俺は話し出す。
「つまりマミ、これはお前にではなく俺に間接的に与えられるように仕組まれていたってこと?」
 半信半疑で聞いてみるとマミは即答した。
「岩崎他の人には綺麗なチョコあげてたし、チョコボールなんて"キョロ"とかけてるしかないでしょ。多分。」
 最後の余計な言葉は聴かな買ったことにしておこう。
 俺は迷った。本当にコレは俺あてなのか?
 そんな風に考えているとホワイトデーにはお返ししろよ、とマミが呟く。
 溶けないうちに俺はそれを口に放りこんだ。
 ピーナッツが入っている。甘い。


 まあそんなこんなで俺はチョコボールを休みの今日買いに来たってワケ。二粒だけとか寂しいじゃん。
 ちなみにホワイトデーは返すかどうか決めていない。
 でも器用で料理上手な俺は日頃の感謝のしるしとして入試終わった頃にでも何かお菓子を作ろうと思っている。
 図書委員のメンバーで楽しい時をまだまだ味わいたいし、ね。

 買い終えて外に出る。寒い。俺は家路を急いだ。

 終