<架空> 【2人】 「紗枝」  凌が私に何かを手渡す。それは柄が長くも短くもない、ごく一般的な工作用カッターだった。 「凌の武器……カッター…?」  カチカチと音を鳴らして刃を出した。刃こぼれ一つしていない、新品同様のもの。それは凌がこれを武器として使っていない事を表していた。つまり、凌はまだ誰も殺めていない。  胸をほっと撫で下ろしてカッターを見つめる。虚ろな私の顔を映して、キラリと光った。次に凌を見上げた。凌は私の視線に気付くと、口元を緩めて微笑みかける。 「しっかり握ってろ」 「え?」 「残りは俺達だけだ。わかるな?他の奴……仲間が、みんな死んだんだ。このゲームは最後の一人になるまで終わらない。だからそれで俺を殺せ」  私の言葉を遮るように続けて言った凌の言葉。はっきりとした、だけれどどこか淋しそうな声。少し伏し目がちの目は私を見つめて離さない。  声を出そうとして口を開いたら声が出なかった。気づかないうちに喉がカラカラに乾いていた。武器をぎゅっと握り締める。 「やだよ」  振り絞った声は、震えていた。  涙が、頬を伝った。 「ふたりで生き残ろうって、やくそく、した……じゃない」  泣きじゃくる顔を誤魔化すように、頭をくしゃくしゃかき混ぜて凌は言う。 「目を閉じて」  私の手に凌の手が重なった。 「生き残るのは、……紗枝、お前だ」  凌が私の手をおもいきり引っ張った。その勢いに思わず私は目を見開く。  刃が何かに引っ掛かり、ギチギチと音を立てて食い込まれていく。次に空を切るように横にスライドし、私の手が重くなった。  生温かい液体が辺りに飛び散る。顔にもかかった。見詰め合っていた目が少しずつ近づいてきて私の横を通り過ぎた。  凌の頭が肩に乗る。 「いやだよ」  制服に血が滲んでいく。 「りょう」  首元に顔を埋める。 「おきて」 『紗枝。俺達二人で生き残ろうな』 最初に見た凌の笑顔が、フラッシュバックして、消えた。  首の皮一枚で繋がっていた刃が凌の首から抜ける。そして真っ赤な液体の上に音を立てて落ちた。  真っ赤な液体……血。  凌の首からはとめどなく血が溢れ出る。制服を汚し、床に広がり、私は足を滑らせて尻餅をついた。ずしりと重くなった凌の体が私に重なる。 「うそつき」  私はそう呟いて、凌の血に塗れた武器を拾い取った。 【1人】